勤医協新聞                                          2006年 7月11日号

過疎地の医療守りたい/黒松内診療所
不況、高齢化、無医村−地域のいのちと健康守る

 小泉「改革」によって不況が長期化し、過疎と高齢化の嵐が吹き荒ています。黒松内町では財政難を理由に医療や介護、福祉のサービスが縮小、寿都町では医療機関が規模を縮小し、島牧村では一時「無医村」となるなど人々は大きな不安の中で暮らしています。困っている患者さんを守りたい−。奮闘する職員達。胸に抱かれた困難打開のキーワードは「たたかいと連携」でした。

片道30キロの往診

 6月15日、勤医協黒松内診療所の往診車が、寿都町島古丹(しまこたん)に向け、片道30qの道のりを出発しました。国道229号線を岩内方向へ。向かった先は患者さん宅(77歳・女性)。
 「お体の調子はいかがですか?」やさしく聴診器をあてる武田雄太所長。「先生、私なんかのために、よくきてくれて、ありがたい」タミコさん(仮名)は目に涙を浮かべ、先生の手を拝むように両手で握りしめ、何度もそう繰り返しました。

地域の救急医療が成り立たない

 南後志は、黒松内町、寿都町、島牧村の3町村合わせて人口約1万人弱。地域の基幹産業である酪農と農業は、国の指導で負債農家に対して補助金カットが行われたため、その戸数が激減し、崩壊寸前まで追い込まれ
ています。黒松内町では、酪農戸数が30戸と全盛期の10%まで減りました。町は赤字財政を理由に福祉バスの有料化(100円)やタクシーチケットの枚数減などの改悪を行い、町民の受診控えもおこっています。
 周辺の医療機関はいずれも大幅な赤字を抱え、寿都町の道立病院は昨年4月に町立診療所に移行し、島牧診療所は今年3月末時点で医師配置が決まらず、5月に道から医師が派遣されるまで「無医村」となりました。
 近隣に大きな病院もなく地域の救急医療が成り立たない状況です。
 先のタミコさんは独居で近くに身寄りもなく、病院から移行した寿都診療所には往診体制がないため、黒松内診療所が往診を行うことになりました。
 三本木美智恵看護師長は、「黒松内診療所も休日・夜間の救急当番を担っています。心筋梗塞や交通事故など重篤な方も来院し、病状によっては遠くの医療機関への搬送が必要となり、過疎地だからこそ充実した医療、救急体制が必要」と話します。

南後志における黒松内診の役割

 こうした状況の中、地域の医師会が連携し南後志の救急医療について検討会を毎月開催しています。黒松内診療所からも武田所長、岩澤史朗事務長が参加し、時には意見交換が深夜に及ぶこともあります。
 診療所に赴任して3年目の武田所長は「慢性的な疲労状態が続いていますが、いろいろ連携をとりながらすすめています。毎月の医師会の検討会では、情報交換や症例検討をおこなっており、当診の療養ベッド(10床)への入院相談が増えています。南後志における黒松内診療所の役割の大きさを実感しています」と話します。
 1950年の開設から、半世紀以上も農村の人々のいのちと健康を守ってきた黒松内診療所。
 訪問看護ステーションと介護療養病床は南後志唯一のもので、往診も訪問看護も利用者の約半分が町外の患者さんで占められ、絶えることのない紹介は南後志の期待の証でもあります。

経営を守り、地域医療を守り

 岩澤事務長は「今回の医療改悪で地域医療の崩壊が加速されます。加えて診療報酬の改悪で入院の需要がありながらも経営が成り立たないのも事実です。困難打開にむけてはたたかいと連携が急務です。今後も、職員一丸となって地域の人々の健康を守っていきたい」と話します。