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「人間の生存と発達の危機」の時代に-心的外傷を負う子ら(1) 田中孝彦一さん(武蔵川女子大学教授)に聞く
北海道民医連新聞 2011.01

信頼の絆 太くする実践を
田中 孝彦さん(武蔵川女子大学教授 教育思想・臨床教育学)

 田中孝彦さん(武庫川女子大学教授) が昨年11月、合同教育研究全道集会(札幌)で記念講演しました。講演の一部を編集部の責任でまとめ、紹介します。

「人間として耐え難いこと」に遭遇

 この4分の1世紀ほどの間、「21世紀は地球規模の大競争時代になる」という判断に立って競争と自己責任を強調する新自由主義の施策が推進されました。その中で少なからぬ人々が「人間として耐え難いこと」に遭遇して心的外傷を負い、子どもと大人の関係にも深刻な問題が噴き出しています。私たちは「社会崩壊」とでもいうべき時代、「人間の生存と発達の危機」というべき時代を迎えていると言わざるを得ません。
 ある私立高校の集いに招かれ、講演後に生徒たちと懇談しました。授業料を滞納して高校生活を続けられない友人がたくさんいて、その問題を考え、解決することを生徒会の中心的な課題にしているとのことでした。
 懇談の中で、何人かの生徒が次々に自分の生活史を語り始めました。ある男子生徒は小中学校時代にいじめを受け、今も当時の傷を引きずっていると語り、ある女子生徒は、中学時代はほとんど不登校で、たまに登校してもいたたまれない思いをしてきたが、この高校で元気になったと話してくれました。
 私は、生徒たちがなぜ唐突に自分の生活史を語り始めたのか、不思議に思って聴いていました。しかし聴いているうちに、自分たち自身がつらい体験をしてきたから、いま授業料を払えないでいる友人たちも様々なつらい出来事に遭遇しているに違いない、だから生徒会として授業料滞納問題に取り組んでいるのだと言おうとしていることが分かってきました。
 高校生たちの語りは、競争と自己責任が強調され、人々の関係が切り裂かれて生活の不安定化が進行する今の日本社会の中で、「人間として耐え難いこと」に遭遇し、心的外傷を負う子どもが増えていることを示しています。同時に、多くの子どもたちが傷を負い、不安を抱え、時には耐えかねて自分や他人に攻撃的になりながら、だからこそ周囲の人々と必死に結びつこうとし、「幸福に生きる」とはどういうことかを考えようとしていることを示しているようにも聞こえました。

発達援助専門職「腰を据える覚悟」

 今の日本社会は「社会崩壊」ともいうべき危機的な状態が進行していますが、その中で、

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