北海道勤労者医療協会
北海道勤医協の病院 北海道勤医協の診療所 老人保健施設・看護学校
「人間の生存と発達の危機」の時代に-心的外傷を負う子ら(3) 田中孝彦一さん(武蔵川女子大学教授)に聞く
北海道民医連新聞 2011.01

れている模索が多様に行われています。
 今重要なことは、そういう経験と洞察を交流し、共有しようとする教師たちの自発的な動きが広がることであって、それを支えていくような研究が必要なのだと思います。私は、教師自身が実感的に感じている言葉で教師像を描いてみる必要があると思っています。漫画家の水木しげるさんは『生まれたときから妖怪だった』という本で「そつのない生き方はだめで、そつのある生き方、そつのある仕事の仕方をしなければダメだ」ということを言っています。「そつ」を辞書で調べると「手抜かり」「手落ち」「無益なこと」「無駄なこと」とあります。そこからおのずと滲み出てくるような、生徒たちがからかってみたくなるおかしさや愛嬌ユーモア、そういうことが大事だと言っている。
 フィンランドの教師から聞き取りをしましたが、「子どもに教えようとすることが自分の内部でつながっている教師自身の学力、教養が大事だ」と言っていました。子どもに教えようとすることが自分の内部でつながっている教師の学力とか教養−教えることは部分的かもしれないが、子どもが「それは大事なことかもしれない」とイメージしながら学べるような教師の存在、教養のあり方が大事だと言うのです。こういうことを、いま教師たちはいっぱい言い始める必要があると思います。
 初めは「またダサイことを言っている」と思われるかもしれませんが、自分の実感に基づいて言い続ける必要がある。人間を育てるには「そつ」があることが必要だ、愚直さが必要だ、教えようとすることが自分の内部でつながっていることが必要だということを日本の教師たちがいっせいにブツブツ言い始めることが大事ではないかと思っています。
 教師たちをシステム的、構造的に追い込む状況や政策は、長い時間をかけても撤回させなければなりません。教育を商品として考えることに馴染まされたような民衆の意識は、長い時間をかけても変わらなければならないと思います。しかし教師は、そうしたときに「ああもう嫌だ」と言っているだけでは済まない。やりすごしたり、切り抜けたりしながら、いろんな言葉を下から言って、状況を揺るがしていく必要があると思っています。

[1] [2] [3]