北海道勤労者医療協会
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「俺はどうなってもいい」−その言葉の背景には

 苫小牧病院での無料・低額診療制度の利用は、 7月までの4カ月間で既に昨年の半数に達しています。不況による失業や低賃金で医療費自己負担が払えないなど、事情は様ざまですが、年齢は50 歳代から60歳代が利用者の6割を超えています。
 Aさん(50代・男性) は糖尿病でインスリンを注射していますが、治療を中断しがちで未収金もありました。中断チェックで看護師が何度か電話をし、やっと話ができても「仕事は休めないしお金もない。俺はどうなってもいい」と投げやりな言葉が返ってくるばかりでした。
 このままではいつ倒れるかわからないので、無料.・低額診療を使えないかと、看護師からソーシャルワーカーへ相談がありました。Aさんに連絡して、「医療費が心配なら相談にのるので、まずは来院してほしい」と伝えても、「仕事が忙しいし、休むと給料が減る。いつ行けるかわからない」と来院日は決まりませんでした。
 しばらくして、夜間診療に Aさんが来たと連絡を受け、さっそく面接をしましたが、「今日は早く帰らなければならない」と次回の相談日を決めて終わりました。2回目の面接で、病院から中断フォローのはがきが来て受診が必要とわかっていたが、仕事が日給制で現場を休むと給料が減ることや、住宅ローンの支払いも滞納しているなど、経済的な悩みを抱えていることがわかりました。さらに、病院にも未収金があり、薬代を含めて月に1万円の自己負担が発生するので、受診できなかったと言います。
 「過去に市役所へ生活保護の相談に行ったが、収入があるからと言われ、相談しても何も変わらない」と言うAさんに、無料・低額診療制度を説明し、申請書を書いてもらい、その日の医療費は保留にしました。
 3回目の面接で、無料低額診療により自己負担 10割免除が適応になると伝えると、「いいのかい」と申し訳なさそうな笑顔を浮かべたAさん。会計に寄らず未収金があり、話す態度も決して好印象とは言えないAさんのような人は、対応困難な患者と思われがちです。しっかりと向き合い、生活背景を聞き、その悩みを知ることで、なぜこういう態度をとっていたのかが理解できます。
 現在Aさんは定期的に受診し、出張などで不在となる場合も事前に相談室に寄ってくれます。中断や未収金の背後にある一人ひとりの生活背景を知ることから始め、信頼関係をつくる大切さを再確認した事例でした。