北海道勤労者医療協会
北海道勤医協の病院 北海道勤医協の診療所 老人保健施設・看護学校
増え続ける生活保護−木下武徳さん講演(2)
北海道民医連新聞 2012.01

  しかし、よく考えてみてください。もし、そうした依存症の人たちを生活保護から追い出したらどうなるでしょうか。「医療費を払えない」「住む家もない」人たちがどうやって、アルコールやギャンブル依存症の治療をすることができるでしょう。病気を克服するうえでも、生きていくうえでも生活保護を活用することが必要なのです。
 また、「生活保護費が3兆円にもふくれあがっている」と言われます。全体の 0・3%に過ぎない不正受給がことさらに取り上げられることも少なくなく、「税金の無駄づかい」と言われることさえあります。しかし、生活保護費は支給されたあと、受給者の懐にとどまるわけではなく、ほぼ全額が消費されます。それも、食料費や日常生活費として主に地域の小売店で消費される、つまり保護費として支給されたお金はほぼ全額が地域の小売店へ「分配」されることになるわけです。これは年金と同じで、地域経済に大きな貢献をしていることになります。
 生活保護費が市町村財政の中で大きな割合を占めたとしても、それは地域経済にほぼ全額還流するわけですし、もっと言えば、保護費の75%は国からくるわけで、市町村からすれば自ら支出した保護費の4倍のお金が地域に落ちることになり、「地域再分配」としての役割も発揮されています。

最低生活保障する制度実現を

 SOS相談会での相談件数が増えていることは当然だと思います。この間の不況の影響は確実に進行していて、生活・労働条件は何ら改善されていません。これまではがんばってきたが、「貯金が尽きて」「病気にかかって」などを契機として、今後さらに顕在化してくるだろうと思います。そうした意味では、生活保護という制度だけでなく、最低生活保障をどう実現するのかという視点が必要になってくると思います。
 働いてきちんと生活できる水準まで最低賃金を引き上げることや、働けなくなっても失業保険を100%受けられるようにすること、年金支給額を生活保護水準まで引き上げることなどの手だてが必要ではないでしょうか。「働けば、普通にくらせる賃金の保障」「働く場を公的に拡大する」「病気になっても安心して療養できる」制度の実現こそが求められていると思います。

社会保障を権利として

 生存権は憲法で保障された権利であることは多くの国民が知っており、生活保護という制度のことも知っているはずです。しかし、建前として権利であることはわかっていても、いざそういう境遇になったとき、なかなか利用に踏み切れないという現実があります。

< [1] [2] [3]